パッポン通りで、ひときわ怪しいピンクのネオンが輝くゴーゴーバー「ピンクパンサー」に入店した僕とあひる師匠。
水着の女たちが踊るゴーゴーバーに圧倒された僕は、トイレに行ったあひる師匠を待つあいだに、絶体絶命の危機を迎えてしまったのでした……!
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はじめてタイ旅行に行った男(6)ゴーゴーバーで絶体絶命のピンチに!
恐怖! 美女の背中に……!?
ビールを飲んでいる僕のもとへ、水着姿の美女がとろけるような笑顔でやって来ました……。
いまさら「NO!」と言うことも出来ず、観念した僕は、頷くしかありません。
美女はそう言って、嬉しそうに僕の隣に座ります。
……座ったんですが……なんて言うんでしょうか、その……
っていうくらいの密着具合なのです!
というか、いきなり自分の片足を僕の足に絡ませて、ほとんど抱きつくような密着した体勢になったのです!
しどろもどろになる僕を見て、美女はニコニコ笑っています。
すると、隣でそれを見ていた店のおばちゃんが言いました。
仕方なく僕がそう言うと、おばちゃんは、笑顔で伝票を掴んで店の奥に去って行きました。
振り返ると、僕の隣では、密着した美女がニコニコしています。
あらためて間近で見ると、ほんとうに若くてキレイな女の子です。
またもや気が緩んでしまいそうになったのですが……
そのとき!
ふと彼女の背中が目に入って、思わず僕はのけぞってしまいました。
なんと、ニコニコしている美女の背中には、その笑顔にまるで似つかわしくない、えげつないタトゥーがドバーッと一面に描かれていたのです!
驚いて顔を上げた僕は、ふと店を見回してみました。
すると……
水着姿で踊っている女の子たちの大半にタトゥーが入っているではありませんか!
ショックのあまり我に返った僕は、強く自分を戒めます。
あひる師匠の豆知識!
恐怖! 美女の誘惑と、トイレのおしぼり!
するとそんなとき、美女がニコニコしながら英語で話しかけてきました。
ちなみに、さきほどもお伝えしたように、このときの僕と美女の距離は、恋人同士でも人前でははばかられるような密着具合です。
そして、その美女の背中には、極妻もびっくりな全面タトゥーです。
僕はあまりの緊張感に体がガチガチに固まってしまって……
ということもなく、気付けば、けっこう楽しく会話をしていたのでした。
いや、ほんと……慣れって怖いですね!
いつしか僕は、ゴーゴーバーという異様な空間に慣れ、水着の美女と密着していることに慣れ、彼女のえげつないタトゥーに慣れて……ニヤニヤしただらしない笑顔で、美女との会話を楽しんでいたのです!
そんな僕の手を取って、美女がニコニコしながら言いました。
目の前の、美女のおっぱいが、僕を激しく誘惑してきます。
そう心を決めて、手を伸ばすと……
なんとそのとき!
長らくトイレに行っていたあひる師匠が、戻って来たのでした……。
そう言いながらやって来たあひる師匠は、どこか不機嫌そうな顔をしています。
どうしたのでしょうか? もしかすると、僕がひとりで美女と遊んでいるのを見て、気分を害してしまったのでしょうか?
僕がおそるおそる問いかけると、あひる師匠は、眉間にシワを寄せながら言いました。
どうやらあひる師匠は、トイレでの出来事に腹を立てていたようです。
僕がそう言うと、あひる師匠は断固とした強い口調で言い放ちました。
僕は、思わず躊躇して口ごもってしまいました。
そうです!
そのとき、僕の手は、美女のおっぱいまでほんの数センチのところに迫っていたのです!
僕は、唐突にも究極の選択を迫られることになってしまったのでした。
おっぱいか? あひる師匠か?
たしかに、あひる師匠には、ここまでのタイ旅行をパーフェクトにアテンドしてもらった恩義があります。
なにしろ、僕にとっては「旅の師匠」と言える存在なのです。
そんなあひる師匠を裏切ることは、僕には出来ません。
けれど!
いま、まさに、僕の目の前には、手を伸ばせば触れられる距離に、美女のおっぱいがあるのです!
旅の出会いは一期一会。このチャンスを逃したら、きっともう二度と出会うことのないおっぱいなのです!
おっぱいか? あひる師匠か?
僕は、その究極の選択に、思わず頭を抱え込んでしまいました。
するとそのとき、店のおばちゃんが再びやって来て、陽気な笑顔で言いました。
この人は、いったいなにを言ってるんでしょうか?
いきなりの申し出で、意味がよくわかりません。
なぜ、このおばちゃんにドリンクを奢らなければいけないのでしょう?
唖然としていると、さらに、一緒にやって来た別のおばちゃんまでもが便乗してきました。
え、あんた誰!?
まったく意味がわかりません。
どうして初めて見る知らないおばちゃんにお酒を奢らなきゃいけないんでしょうか?
そうこうしていると、あひる師匠がまた強い口調で言いました。
隣では、美女がニコニコして誘惑してきます。
おばちゃんがしつこく言い寄ってきます。
もはやパニックです!
おっぱいか? あひる師匠か? おばちゃんか?
情緒がおかしくなりそうです……。
けれど、なんとか気力をふりしぼった僕は、情緒が崩壊する寸前に、かろうじて声を上げたのでした。
狂騒のバンコクナイツ!
そうして、僕は美女のおっぱいに後ろ髪を引かれながらも、再びあひる師匠とともに夜のバンコクへ飛び出していったのでした……。
そんな不安を抱えながらも、僕とあひる師匠の夜の大捜査線は、その後さらに勢いづいて、バンコクのさまざまな街角で繰り広げられました。
なぜなら、バンコクの夜の顔は、僕たちが想像していた以上に奥が深いものだったからです……。
見上げた天井がシースルーになっているゴーゴーバーでは、上階で踊っている女の子のスカートの中が丸見えになっていました……。
勇気を出して入ったレディボーイ専門のゴーゴーバーでは、あひる師匠が大柄なレディボーイにロックオンされました……。
店の女の子がスポンジの棒で客を叩いて回る変態チックなゴーゴーバーでは、シャワーコーナーで泡まみれになった女性を、客の白人カップルが楽しそうに見ていました……。
援助交際を求める若い女の子たちが100人以上ズラーっと立ち並んだ地下のカフェでは、群がったアジア系の男たちが女の子たちを物色しながら酒を飲んでいました……。
そして、その店の外では、店に入れないレディボーイたちが声をかけられるのを待っていました……。
日本人も、中国人も、韓国人も、白人も、黒人も、インド人も、アラブ系も、男も、女も、ゲイも、レディボーイも……夜のバンコクには、あらゆる種類の人たちがいて、そこには、これまで僕がまるで知らなかった世界が繰り広げられていたのです……。
そうして、そんな狂騒のバンコクナイツをなんとか生き延びた僕とあひる師匠は、ついに、ひとつの店にたどり着いたのでした……。
その「クレイジーハウス」という名のゴーゴーバーは、「ソイカウボーイ」という通りの外れにあり、店の入り口には、外から店内が伺えないように黒い幕が垂れ下がっていました。
先陣をきったあひる師匠が、その幕を引いて店の中に入って行きます。
その背中を追って、僕も店内に足を踏み入れます。
すると……!
なんと、僕たちがその店内で目にしたのは、全裸で踊る無数の女性たちだったのです……!
(つづく)
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